2012 9 月

【2012年9月15日経営学部創設50周年記念シンポジウムの概要】

立命館大学経営学部創設50周年記念シンポジウム
「関西企業のグローバル戦略と求められる人材」

  • ■基調講演
    竹本正道氏(日東電工株式会社相談役、関西経済連合会労働政策委員長)
  • ◆パネリスト
    廣冨靖以氏(株式会社りそな銀行代表取締役副社長兼執行役員)
    此本臣吾氏(株式会社野村総合研究所常務執行役員・コンサルティング事業本部長)
    竹本正道氏

2012年9月15日(土)に、大阪梅田にある富国生命ビル12階アクセス梅田フォーラムにおいて、立命館大学経営学部創設50周年記念シンポジウムが「関西企業のグローバル戦略と求められる人材」というテーマのもと、経営学部と経営学部校友会の主催で開かれました。2015年度の経営学部の茨木新展開を見越して、大阪の皆さんに立命館大学をもっと知っていただこうという趣旨で行われたものです。約90名の参加で盛況でした。

≪竹本正道日東電工相談役の基調講演≫
はじめに、「アジアにおける日本企業の経営とグローバル人材」と題する基調講演を竹本正道氏(日東電工相談役、関西経済連合会労働政策委員長)が話されました。まずはその概要から。

変化に対応した者だけが生き残った
日東電工でも53名の立命館大学卒業生を受け入れてます。まず申し上げたいのは、環境の変化に企業は対応すべしということである。第1次産業から第2次産業、第3次産業へと産業は発展してきたし、製造業でも、繊維→船・鉄→石油化学・家電→半導体→自動車・PCと発展してきた。では次は何だろう。過去を変えることはできないが未来は我々の努力でいかようにも変えることができるわけです。
過去、強い者だけが勝ったのではない、環境変化に対応したものが生き残ったのである。世界はいまどういう時代なのだろう?それは新しい価値観の登場する時代である。人口増加のカーブを見ると、近代からさらに近年にかけてそのカーブは急激に高まっている。そして高齢化・人口増の鈍化に向かっている。では経済は今後も成長できるのだろうか。今後どんな価値観が出てくるのか、誰もわからないのである。

少子高齢化など今は激変の時代である
国別人口ボーナス指数というのがある。これは働き手(生産年齢人口)が、養われる側(従属人口)の何倍いるか、と言う指標である。少子高齢化が進むと、働く人が減って扶養家族が増える。日本は世界で最初に少子高齢化が進む国である。それだけに少子高齢化のモデルになる。2030年以降世界中が少子高齢化の時代を迎える。つまり、これは世界が産業革命期と同じくらい大きな変化に直面しているということである。
今やクラウドコンピューティング革命とか、ポスト工業化社会とか、ボーダーレス化とか、多様な価値観といったさまざまな問題に直面している。その中でも共通課題となるのが、人口爆発と食糧・エネルギー問題である。ボーダーレス化、ポスト工業化、少子高齢化、ポストPCといった問題にも直面している。まさに今までとは違う世界へ向かっている。まさに先の見えない混沌とした状況である。2012年現在、先行き不安が蔓延している。

日本のこれまでの変化の問題
日本のこれまでの変化を振り返ってみる。日本は明治以後の成長のあと、第2次大戦後も成長をつづけてきた。でもこれはキャッチアップしただけだった。
では、これからどうなるのか?それは少子高齢化時代のビジネスモデルをつくるチャンスであると考えることが出来る。最終製品を作ることが高付加価値をもたらす時代からそうでない時代へと変わってきている。スマイルカーブ(製品の組み立て・製造工程の利益率が低いことを表現したもの)へと付加価値の高い部門に変化が生じてきている。アメリカはソフトで利益を稼いでいるが、ハードはアジアで一生懸命作っているだけだ。まさに、昔のままの努力ではだめな時代になってきている。

今後の日本は予測できない
第1に、少子高齢化の時代になって、人は新たなものを望まなくなった。第2に、お金ではなく、アイデアが武器になる時代になった。希少価値のあるもの=知識、アイデアが必要になってきている。第3には、ボーダーレス・機会均等になって、情報が瞬間的に世界に伝わるようなネットワークシステムができている。こういう変化が起こっているので、今後の日本は容易に予測できなくなっている。

日東電工グループの考え
さて、それでは日東電工グループはなにを考えているかに、少し触れる。
当社は戦後何回か変革を遂げた。当初乾電池などを作っていたがこれに失敗し、この部門を日立製作所に売った(現日立マクセル)。そして、粘着テープに注力した。2001年ITバブルで、売り上げは7千億円を超えた。その後減少している。しかし、この間国内売上はずっと2千億円程度で、現在比率は32%である。また、株主の外国人比率が高まっている。さらに、従業員も海外が多い。ではこれで、グローバル化しているといえるのか、いやそうではない。基本は日本で作ったものを海外に売っているだけである。
日東電工は成熟ステージにある製品が多い。ここでも少子高齢化の影響がある。次の成長点を必死に探しているところだ。国内で成長させるビジネスを創出しなければならず、過大なスペックとなった。
いまや3つのグローバル展開が必要で、第1に、ビジネスの対象地域の拡大、つまり、ローカルに密着したものを作る必要がある。第2に、ヒューマンリソースの拡大=外国人・女性の活用が必要である。採用は日本人にこだわっていない。さらに女性活用は遅れている。特に日本でそうである。第3には、教育方法の変化である。
日東電工ではこれまで、日東ユニバーシティというので幹部を養成してきたが、今やグローバル・ビジネス・アカデミーを展開し、これまで日本語、日本人対象であったのが、今や英語で教育し、その構成も日本人5、外国人5となっている。

グローバル人材とは
ひるがえって、当社に限らずグローバル人材とはなんだろうか。そして、誰がどのように育成するのか。企業、会社は必死でそれにチャレンジしている。だが、国・地域はまだまだである。また大学も3C発想に欠けている。つまり、「自分たち」、「競争相手」、「お客様」を考え、自分たちは世界でどの辺に位置づくのか、考えて欲しい。世界のナンバーワンを目指してほしい。カスタマー、言葉の問題もある。学生をみても、取りたい人は外国人、女性、男の順となる。日本の学生は危機感を持って勉強しているかはなはだ疑問だ。

人が成長する要素
人が成長する要素は、まず、子供時代は好奇心である。次に学生時代・社会人前半は闘争心であり、さらに社会人後半は恐怖心である。教育は、各人の好奇心・闘争心・恐怖心に働きかける役割を担うべきである。日東ユニバーシティの卒業生は今や経営幹部となっている。教育というのは、あきらめたら終わりであり、将来にボディブローのように利いてくるものである。

トップに必要なこと・チャンスの時代
世界中のトップがどんな人間かを考えてみる。今まで会ったトップに共通している点は何かというと、元気で、積極的で、礼儀正しいし、姿勢がいい。また、声が大きい。さらに、異なる業種の情報源を多く持っている。このことはわかっているが、それをやらないことが多い。これをやる人とやらない人で差が出る。これからこそおもしろい、いいチャンスである。

≪パネルディスカッション≫
引き続き、これを受けてパネリストによるディスカッションが行われました。最初に、パネリストのりそな銀行代表取締役副社長廣冨靖以氏と野村総合研究所常務執行役員此本臣吾氏のお話があり、その後パネルディスカッションが行われました。

廣冨靖以氏(りそな銀行代表取締役副社長)
まずは、廣冨氏が概要次のようなお話しをされた。
90年代までは事業を拡大してきたが、それはいまや無理。わが前身の銀行は、不祥事を起こし海外撤退を余儀なくされ、金融危機を経て、縮小均衡をつづけ、2001年りそな銀行として再発足した。
いま7カ国に展開し、インドネシアのみはフルバンキングを展開している。そこでは自前主義を捨て、現地銀行を活用している。中堅・中小企業の海外進出を支援している。それをインドネシアを軸に展開している。関西企業の海外戦略を支援している。海外展開する企業には追随型、コストダウン型、現地市場開拓型、混合型とさまざまであるが、大企業だけでなく中堅・中小企業の海外進出が増加してきている。しかも海外でも賃金上昇が生じている。
事例から学ぶアジア進出に際しての留意点を考えてみる。その事例は兵庫県宝塚にあるS社であるが、中国だけでなくタイのチェンマイにも進出しており、早め早めのトップの判断が功を奏している。事前調査も綿密で、トップの真剣さが際立っている。
アジア戦略は関西が距離的に優位である。今やチャイナプラスワンで、リスク分散を図るべきである。関西は、もてなし、サービス、カルチャー、ソフト力で優位である。ただし、問題点(一般的な問題でもあるが)は人材不足であり、文化、慣習への理解不足である。現地販売体制構築のためには、現地情報が必要だし、グローバル人材の育成サイクルを構築しなければならない。

此本臣吾氏(野村総合研究所常務執行役員)
続いて、此本氏は概略次の内容のお話をされた。
関西企業のグローバル戦略と求められる人材であるが、日本企業では問題は認識しているが頭の整理ができていない。コンセプトが各人各様である。3階層にわけて考えるとよい。それは、「ガバナンス」、「人材開発と人材管理」、「人事制度の運用基盤」の3階層である。ガバナンスは均一的でない。揺籃期、発展期、成熟期で異なる。拠点ごとの人的指標の現状や変化をモニタリングし、人事制度の運用基盤を調え、グローバルグレーディングが必要である。
そして人事部門の自己改革も求められる。そこでは受け身ではなく積極的に役割を演じる必要がある。いつでも海外進出に応えられる人材をそろえておく必要がある。

パネルディスカッションでの各氏の発言のポイント
(1)なぜいま日本がなぜ立ち直れないのか、これまでの日本企業の良さを活かすか違うやり方が必要か
、という問題提起を受けて
・此本氏は、日本企業は欧米市場ではうまくやれたが新興国市場ではうまくやれなくなった。
・廣冨氏は、覚悟の違いがあったのではないか。
・竹本氏は日本のマーケットが中途半端に広いのが問題だ。

(2)どこまで変える必要があるのか
・廣冨氏は、日本の経営の良さを反映してやるべきだ。
・此本氏は言葉の問題があるとされ、JTがスイスに海外本部を設けているという事例を紹介。
・竹本氏はサムソンではリーディング言語を使っているという事例を紹介された。そして、人の問題が大きいとされ、生き残っている会社は自ら変わっている。

(3)関西企業はどうする?
・竹本氏は大阪の人の方がおもしろいし、アジアに対して開けているので、もっともっと力が出せるはずだ。トップが大事で、小さくても足周りがよくて動きの早いところが生き残る。
・廣冨氏は、関西の伸びしろあり。
・竹本氏はさらに、日本人は就職ではなく、就社であり。これまでのように、企業はよい人を抱え込んで教育するのはだめだ。
・廣冨氏は、学生もそうだが、メガバンクは海外の人材が不足している。グローバル人材獲得が必要で、女性活用の必要性がある。だから、女性の働きやすい職場づくりをしているし、魅力ある会社が必要だ。
・此本氏はさらに、海外の人が魅力をもってくれる人事制度、職務制度が必要で、日本は職務中心ではない問題がある。研修も、採用も、日本だけのやり方で来た。このポストにはこの能力の人というように、制度設計の発想を変えるべきだ。悪循環が生じている。

(4)大学に対して望むこと?
・廣冨氏は、APUはよろしい。今後のことを考えると、疑似役員、疑似トップのシミュレーションをとりいれてはどうか。
・此本氏は若い人が内向きなのは親の責任である。留学させるなら高校から留学するのがよい。
・竹本氏は大学もシンガポールで勝負してほしい。インフラとしての大学が大事だ。

《編集後記》
大変興味深い、面白いお話しでした。フロアからの質問も実に興味深いものがありました。時間不足ではありましたが有意義なシンポジウムでした(M)。

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