第2回経営学振興セミナー
「プロスポーツ、NFLとドラッカー」
2009年度第2回経営学振興事業セミナーは2009年10月17日、福岡市天神の「ソラリア西鉄ホテル」において、19名の参加を得て行われました。2年ぶりの福岡開催となりました。今回は「プロスポーツ、NFLとドラッカー」というテーマで、立命館大学経営学部教授種子田穣先生にお話し願いました。終了後、同ホテルで行われた福岡県校友大会懇親会と合流しました。
研究のきっかけ
来年度、本学でスポーツ健康科学部設置というタイミングでこのお話をすることになりました。私は当初管理会計の研究をしていたのですが、経済学部・経営学部のBKC新展開での文理総合インスティテュート、とりわけサービスマネジメント・インスティテュートの設置に際し、「スポーツビジネス」の担当のためにこちらの勉強を始めました。スポーツ産業学会がかねてありましたが、スポーツマネジメント学会が昨年でき、そちらの役職もしています。経営学の視点からプロスポーツを研究していますが、そういう研究をしている人は少ない。
アメリカンフットボール・プロスポーツ
立命館大学ではアメリカンフットボールはメジャーですが、日本ではメジャーではないんです。アメリカではスポーツビジネスは盛んです。アメリカでの4大プロスポーツといわれるのは、野球(MLB)、バスケットボール(NBA)、アイスホッケー(NHL)、アメリカンフットボール(NFL)です。最近はそれに自動車レースが4大スポーツに肉薄し、最近ではビッグ・ファイブといわれています。NFLはビジネスという視点からは圧倒的な立場にあります。プロスポーツビジネスはアメリカで隆盛を極めています。日本ではプロ野球ですが、今、転換点にあり、楽天やソフトバンク、日本ハム、ロッテなど台頭してきています。
アメリカンフットボールのすごさ
たまたまNFLの日本の支社から立命館大学に日本におけるスポンサーになってほしいと話が舞い込んできました。NFLヨーロッパで河口選手が活躍していた縁で話がきました。大学がスポンサーになるのは難しいが、大学と一緒に色々できるのではないかと提案して、NFLと協定を結ぶまでに至りました。そこで、NFLのビジネスは日本では知られていないけれど、圧倒的であることを知りました。アメリカで一番好きなスポーツときけば、NFL22.7%、MLB12.8%で、視聴率でも他のスポーツを圧倒しています。スーパーボウルの視聴率は41.2%という高視聴率です。市場規模80億ドルで、MLB60億ドル余という順です。「するスポーツビジネス」として、フィットネスなどがありますが、「見るスポーツビジネス」の代表がNFLです。スポーツ用品メーカーもスポーツビジネスですが、他の製造業と変わりません。機能性、安全、環境、スタイリッシュ、リーズナブルなバリューなどなどが問題となります。
時間消費型ビジネスとしてのプロスポーツ
これに対して、スポーツビジネスはサービスビジネスです。無形で、顧客に時間消費を提供する時間消費型ビジネスです。ライバルは野球だけではありません。映画などなどもライバルです。プロスポーツビジネスの商品は試合です。コアは試合です。試合が重要です。でも試合だけではビジネスは成り立ちません。有意義な時間を過ごせる仕組みが必要です。これはコアに対してエクテンディッドといいます。ハードウェアは居心地の良いスタジアムなどです。対照的に、日本の野球は、ファンに甘えていましたから球場の居心地は良くありませんでした。
顧客に対して、どういう経験を提供するのか。感動、悔しさ、一体感、などいろいろな経験を提供できます。どんな経験価値を与えることができるかです。
アメリカ型とヨーロッパ型
スポーツビジネスには2類型あります。アメリカ型とヨーロッパ型です。アメリカ型は、NFLやMLBなどリーグ式で閉鎖的です。新規参入は容易ではありません。参入の障壁が非常に高い。ヨーロッパ型で著名なのはサッカーですが、トップから下まで縦型で、参入は容易です。勝ったら、上へ上がる。負けたら落ちる。流動性が確保されています。この場合同じリーグに属しているチームの力は均衡します。日本のサッカーは、J1・J2とありますが、これはヨーロッパ型です。日本のプロ野球はアメリカ型です。コアは魅力的な試合をすることです。レベルが高く、白熱する、顧客を魅了する必要があります。
アメリカ型の問題点
一つのチームが勝つばかりだと面白くありません。つまらなくなって、ファンが減ります。日本のプロ野球は読売巨人軍中心主義、これを「正力モデル」と私は呼んでいますが、この限界が出てきて、日本プロ野球の人気が落ちました。プロ野球は戦後、日本の国民を元気づけてきましたが、読売巨人軍のV9時代がピークです。現在のオーナー渡辺氏は正力モデルを踏襲しているだけです。
閉鎖型は特定チームの「一人勝ち」を招きます。オーナーの財政力に依存しますから。フランチャイズが大都市か、地方都市かでも違ってきます。大都市の方が観客を集めやすく、視聴者数が多いので放映権料が高くなります。この点に恵まれたチームが一人勝ちしがちです。日本のプロ野球は足並みがそろわず、リーグの力が無い上に、弱いチームに合わせる傾向があります。
アメリカ型の問題を克服したNFL
ヨーロッパ型はリーグの権限が弱くても良いのです。自然に勢力が均衡しますから。アメリカ型はリーグ集権型です。そうでないと成り立ちません。ヨーロッパ型はチーム分権型です。NFLは最も成功しましたが、それはリーグの力が強いからです。NFLモデルです。何を目指しているかというと「イコール・コンディション」です。ドラッカーのいう企業家精神の発揮といえます。
放映権料などいろんな収入がリーグに集まります。リーグが32等分して各チームに分配します。フランチャイズの規模やオーナーの財政力とは関係なく、70%の収入は分配によります。給与総額はチームごとに一緒です。「サラリー・キャップ制」があります。最低年俸もありますが、どのように分配するかを勘案して、補強ポイントを考えて、チームを強くします。「ウェーバー制ドラフト」もあり、前年度の下位チームから優先して指名します(指名権を売ることもできますが)。閉鎖型の場合、これが必要です。NFLはイノベーションを推進してきました。市場志向です。ビジネスモデルを作ってきました。
メディア戦略
プロ・スポーツではメディア戦略が重要です。全米放映など、独占放映権契約があります。これは反トラスト法(独占禁止法)に抵触するおそれがありましたが、公共財には反トラスト法適用外なので、NFLは公共財として認められ、独占放映権契約を認められました。いまやベースボールを抜いています。メディア網の発展と並行してNFLは発展してきました。MLB(野球)はあぐらをかいていました。
テレビは魅力的なコンテンツを求めていましたが、NFLはそれを機会として捉えました。テレビという「新しい知識」と「機会」との結合によるイノベーションを生み出したのです。これまではプロスポーツビジネスにとって放映権料という考えはありませんでした。「イノベーションが事業として成功したあと本当の仕事が始まる。」といいます。
「マンデーナイトフットボール」などその例です。毎週日曜日の午後に試合が行われます。激しいスポーツなので1週間に1試合しか行われません。そこでプライムタイムに全米中継しようと思いついたのです。これがマンデーナイトフットボールです。伝統のある試合は新しい商品のパッケージになります。
「ブラックアウト」というセールスも考えました。キックオフ(試合開始)の72時間前にチケットが完売していなかった場合、その地域の放映をさせない。ホームゲームは8試合しかありません。アウェーのみ完全に放映し、ホームゲームはチケットが完売したら放映します。最初はチケットを売るための方策でしたが、いまや意味が違ってきました。満員のスタジアムの映像がテレビ視聴者に興奮を提供するという考え方です。メディアを意識した映像の価値を高める視点への転換です。
魅力あるパッケージを販売して、放映権獲得競争を煽っています。1995年には「NFLサンデーチケット」を考えました。衛星放送で好きな試合を見られるようにしました。「NFL.com」というのもあります。スポーツ界最初のウェブ・サイトです。各チームのサイトの統一性維持をはかっています。オンラインゲームもあります。新しいコンテンツを開発し続けています。NFLネットワークでは、放映権料を売るのではなく自分たちで独自に放映しています。
「フレキシブルスケジュール」(2006年から)というのもあります。最初から、11週以降の放映スケジュールを決めず、その時点で白熱するだろうゲームを放映します。放映権料ビジネスの発展はめざましいものがあります。継続した企業家精神の発揮です。
これらの継続した企業家精神発揮によるイノベーションの努力の結果、視聴率はレギュラーシーズン10%超、プレイオフ約20%、スーパーボウル19年連続40%以上です。
NFL Filmsのイノベーション
私がインタビューでNFLのビジネスの強みを聞きましたら、試合数が少ないことだというのです。1試合1試合の付加価値を高めようという発想がそこから出てくるというわけです。逆転の発想です。MLB(野球)の162試合とNFL(フットボール)16試合の違いは大きい。だからこそ革新的で自由な発想によって商品である試合の希少価値をさらに高めようとするのです。
NFL Filmsを設立し、フィルムを使用して、映像作品という新しい商品ジャンルを創造しました。スローモーションを取り入れたのもNFLが最初です。フットボールのドラマ化を考えました。映像のブランド価値を高めました。映像の放映を制限し、勝手に編集して番組を作ることを禁止しています。NFL Filmsの映像を使わせます。まさに企業家精神の発揮です。
コミッショナーの言葉によれば、「NFLにしか提供できないものは何かを考え、NFLに成功をもたらす組織構造の仕組みを掘り下げる努力をしてきた」(ポール・タグウェル:前コミッショナー)。また、ロジャー・グッデル(現コミッショナー)は「我々は頂点にのぼり詰めたとは考えていません。我々にとって現在は通過点に過ぎない」と言い、常にイノベーション・革新をつづけています。今は、ヒスパニック対策を講じています。成功しても終わりがないのです。あぐらをかかないのです。ミッション(ドラッカーはこれを大事にする)を大切にしています。スポーツの公共性、リーディングカンパニーの社会的責任、を考えています。これはプロスポーツだけの話ではないはずです。新しい仕組みを作る努力、常に前向き、あぐらをかかない。社会の公器としての組織を考える、などなど学ぶべき点は多いと思っています。
《編集後記》
紙幅の都合上、興味深くて楽しいお話のすべてを伝え切れていないのが残念です。次回セミナーは1月16日東京「グランドプリンスホテル新高輪」で行います。お楽しみにお待ち下さい(M)。



